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虎ノ門プロジェクト レポート 「ベンチャー・カフェ東京」と考える、イノベーターの「居場所」の作り方

写真右から ※敬称略 ベンチャー・カフェ東京 Program Director 小村隆祐 / 森ビル タウンマネジメント事業部 虎ノ門ヒルズエリア運営グループ リーダー 中裕樹

世界最大級のイノベーション創出機構・ケンブリッジイノベーションセンターが、世界 5 都市で展開するイノベーション促進プログラム「ベンチャー・カフェ」。そのアジア初進出先として選ばれたのが東京・虎ノ門ヒルズです。ベンチャー・カフェ東京では、多様なイノベーターたちを中心に異分野交流を促すイベント「Thursday Gathering(サーズデー・ギャザリング)」を、2018年から毎週木曜日に開催中。毎回数百人の来場者が集まる、活気ある場となっています。イノベーション・コミュニティとして1年以上にわたる活動を通して得たもの、その作り方のヒント、そして虎ノ門エリアの可能性についてベンチャー・カフェ東京の小村さんと森ビルの中さんに語ってもらいました。

世界的なイノベーション都市・ボストンの
文化や雰囲気を、日本・虎ノ門にも

「サーズデー・ギャザリング」が始まって1年以上経ちました。これまでどういったプログラムを運営し、どのような成果につながっているのでしょうか。

小村
ベンチャー・カフェではさまざまなプログラムを用意していますが、ボストンはじめ他の拠点でも共通に行われている象徴的なイベントがサーズデー・ギャザリングです。文字通り、イノベーションに関心のある200~400人が、毎週木曜の16時〜21時に集い、意見交換を重ねています。
ベンチャー・カフェが生まれたボストンは、学園研究都市のイメージを持つ方も多いですが、各種調査で高い評価を受ける世界的な「イノベーション都市」です。私も何年かボストンで過ごしましたが、カジュアルにコミュケーションできる文化や雰囲気がとても心地いいんです。「何かが生まれそう」という空気に満ちていて、前向きなチャレンジ精神が刺激される街というか。当時感じた文化や雰囲気を日本にも移植できればと思い、いま虎ノ門で奮闘しています。

一般的にイベントやセミナーというと、日本だとテーマがきちんと決まっているケースがほとんどだと思います。しかし、サーズデー・ギャザリングでは、「今週のテーマは○○」といった設定を設けないことにしました。テーマを絞ってしまうと、集まる人の「色」が似てしまい、イノベーションに必要な異分野の交流が弱まると考えるからです。あえてテーマを固定させないことで、セレンディピティのある出会いを狙っています。
実際、参加者の顔ぶれは多彩です。起業家、投資家、大企業の新規事業担当者、学生、研究者など、さまざまなバックグラウンドの方がいますね。当初はベンチャー・カフェという名称から、スタートアップの関係者や起業家が多く集まるかと思っていましたが、大企業からもたくさんお越しいただいています。霞が関が近いという地の利もあって、官公庁の方もよく見かけますし、英語のセッションも多いので、在京の外国人や海外からの参加者もいますね。普段出会えない人同士が繋がっている印象があります。

私は虎ノ門エリアの街づくりを担当しており、虎ノ門ヒルズのみならずエリア全体をどうやって活性化していくか日々試行錯誤しています。「イノベーションが起きる街・虎ノ門」に向けた取り組みもその一環です。サーズデー・ギャザリング自体が盛り上がることも重要ですが、このイベントのない時間やエリアをどう活性化させるかも同様に重要です。そこで、サーズデー・ギャザリングに集まる多彩な人たちから、街づくりのヒントをもらえたらと思い、新しい取り組みを始めました。

居場所づくりの重要性が再認識されはじめている

新しい取り組みとは、具体的にどういうアクションに進めていますか?

2019年3月から、サーズデー・ギャザリングのセッションの1つとして、「CREATE! THE INNOVATORS' HABITAT」(イノハビ)をスタートさせました。これは、新たなビジネスやイノベーションを次々と生み出す街にするためには何が必要かという問いについて、起業家、投資家、シェアオフィスやコワーキングスペースの運営者、ディベロッパーなどさまざまな立場の人を集めて、ディスカッションするものです。持続的にイノベーションが起きる街になっていくには、現状の課題だけでなく未来の可能性について理解を深め、かつ、絵空事に終わらせることなく実現に向けた強いつながりを生まなければなりません。
小村
このセッションの肝は、「ハビタット」です。この言葉には、居場所という意味があります。実は、ここ最近、米国のビジネスシーンではハビタットという言葉がエコシステムに取って代わる形で頻出し始めています。その背景には、エコシステムという森を育むうえでの土壌づくり、すなわち居場所づくりの重要性が再認識されてきたのだと感じています。そういった問題意識を前提に、イノベーターのための居場所とは何なのか、イノベーションが起きる街とはどういったものかなどを考えています。今までは中さんと議論してきましたが、もっと多くの人と一緒に考えたいという思いで、イノハビを始めました。

その中で私たちが注目しているのが目に見えないものです。イノベーションが起きる街になるには、コワーキングスペースや快適なオフィス空間といったハード面の充実ももちろん必要ですが、それ以上に街に大切なのが、文化やトンマナのような目に見えないものだと思います。例えば、冒頭でも触れたボストンのような空気感を持ち込むことが、イノベーターにとって心地いい場づくりへとつながるのではないか、そう話し合っています。サンテグジュベリも書いていますが、"The most beautiful things in the world cannot be seen or touched, they are felt with the heart(本当に大切なことは目に見えないんだよ)"ということなのだと思います。
別の言い方をすると、既存の街づくりや都市論といった方法論だけではイノベーションが起きる街づくりには到達できず、イノベーションという言葉を追求しても都市とは交わらない気がしていました。先行事例を調べたり、実践する中で、街づくりとイノベーションという2つの言葉が交わることなく、それぞれの取り組みとして動いているような気がしたんです。街づくりとイノベーションの中間に解決の鍵があるんじゃないかと思い、イノベーターの「居場所」に着眼することにしました。

イノベーションが起きる街、
国際新都心として虎ノ門の存在感を高めたい

では実際に、虎ノ門がイノベーターたちにとって刺激的な居場所として発展していくために何が必要でしょうか。

小村
虎ノ門はいい意味で色がない街です。どんどん変わっている最中で、伸びしろもある。これから街やコミュニティを作っていくというモメンタムがあり、新たな文化を醸成しやすいエリアだと感じています。実際、それにいち早く気づいた人や企業が集まっていますね。イノベーションコミュニティを作り上げていく場所としての相性はとても良いのではないでしょうか。
居場所という文脈でいうと、虎ノ門ヒルズでは、「わたしたちの場所をみんなでつくろう」というコンセプトで「OUR PARKS」というイベントシリーズを続けています。虎ノ門ヒルズのオーバル広場やアトリウム、あるいは新虎通りといったオープンな空間に、さまざまなコミュニティを巻き込んだコンテンツを用意して、その使い方を提案するものです。やはり街や施設は使ってもらうことで良さが活きますから。このような「場所づくり」のアプローチによって、虎ノ門エリアを継続的に盛り上げ、そしてサーズデー・ギャザリングやイノハビのようなイベントとも連動して、いろいろと仕掛けられたらと思っています。
小村
将来的に大きく発展するポテンシャルを秘めたコンテンツが出てきはじめました。イノハビもその1つですし、イノベーション界隈でも勢いのあるフードテック分野に特化したFuture Food Campなどもそうです。いずれフォーラム全体を使うような大規模イベントが数多く生まれることを目指して、イベントやコンテンツの芽を街全体で育てていきたいですね。

また、ベンチャー・カフェ東京の非営利団体という中立的なポジションを活かすことで、いろいろなイベント主催者が相互に乗り入れることも可能です。例えば、昨年10月に虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された大規模なオープンイノベーション・カンファレンス「Innovation Leaders Summit(ILS)」に出展したボストンのAI企業を、サーズデー・ギャザリングのゲストに招いたことがあります。ILSで広くネットワーキングした彼らと共に、ボストンという街やAIについて語りあう「Boston AI Night」というテーマで実施しました。
このような施設やコンテンツの豊かなバリエーションは、虎ノ門ヒルズだからこそ実現できることです。場の使い方はどんどん試行錯誤していければと考えています。いろんなケースを積み重ね、イノベーションが起きる街、国際新都心としての虎ノ門ヒルズの存在感を高めていきたいですね。街を歩くとビジネスのタネが転がっている、行き交う人と会話すればイノベーションのヒントが出てくる、そんなエリアに育てていければと思います。

PROFILE

小村 隆祐 ベンチャー・カフェ東京
Program Director

同志社大学経済学部卒業、Babson College F. W. Olin Graduate School of Business(MBA)。大学卒業後はメーカー系IT企業にて主にマスコミ業界におけるアカウント営業業務や映像伝送に関わるクラウド サービスの立ち上げプロジェクト等に従事。MBA留学を経た後、株式会社グロービスにて人材育成・ 組織開発コンサルティング部門に参画。大企業の次世代経営者育成やスタートアップの組織開発等を手掛けつつ、起業分野のコンテンツ・教材開発も行う。その後、現職。ボストンに拠点を置くNPO 「Binnovative」立ち上げメンバー。

中 裕樹 森ビル株式会社タウンマネジメント事業部 虎ノ門ヒルズエリア運営グループ
グリーンバード虎ノ門チームリーダー

2008 年「森ビル株式会社」入社。虎ノ門ヒルズのヨガ、フラワーマート等のイベント企画やTOKYO MURAL PROJECT など新虎通りを含めたエリアの活性化、グリーンバードの清掃活動を通じたコミュニティづくりに携わる。
六本木ヒルズで毎月開催している朝のトークイベントHillsBreakfast の企画も担当。

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